これを証明するだろう。近代の科学が未知のものを計算しようとするのは、この原則の精神を奉じているからだ」と書いて大部分の真理が傍系的なものから出ることを説明し、当時の周囲の事情を調べるのが当然の順序であることを述べ各新聞紙から、議論を組み立てるに必要な記事を抜粋して、然る後、それを基として更に明快な推理に移って行く手際は、実に巧妙を極めている。
このような書き方こそ、本格探偵小説の原型をなすものであって、この型が如何にしばしばドイルその他の探偵小説家によって採用されているかは、読者のよく知っていられるところである。列挙せられた新聞紙の記事は所謂この物語の第二の伏線とも見るべきものであって、第一の伏線たるマリー失踪前後の記述と相まちて、この長い物語の美しい「あや」を形《かたちづく》っているのである。何気なしに読んでいると、「マリー・ロオジェ事件」はまるで一篇の論文のように思えるが、その実あく迄用意周到に一篇の物語を編もうとしたポオの努力がありありとあらわれている。
もとよりこの物語には、何等はらはらさせられるところがない。これは題材の性質上やむを得ないことであるが、それにもかかわらず読
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