で、訳語の一定して居るものは仔細ないが、或る専門語、術語などで未だ訳語の極まらぬ者に出会つた時の苦心は一通りではない、予が是れまで二三の社会主義書類を訳したのでさへ、随分悩んだことがある、例せば彼の社会党が多く使用するブールジヨアジー(Bourgeoisie)てふ語の如き、是れ迄或は中等市民と訳し、或は資本家、或は富豪、或は紳商などゝ訳してみたが、如何しても社会主義の所謂ブールジヨアジーの意義を完全に顕すことが出来ぬ、予は数年前堺枯川と『共産党宣言』を訳した時、両人で種々に相談した末に、逐に「紳士閥」と訳することに折合つた、固より此に紳士といふのは、ゼントルマンの如き立派な意味ではなくて、日本語に所謂紳士、即ち旦那連の意味に過ぎないので、能く労働者に対する中流以上の階級を代表し得たと思ふ。
 其他クラスコンシアスネス(階級的自覚)プロールタリアン(平民若くは労働者)エキスプロイテーシヨン(資本家が労働者に対する掠奪)エキスプロリエーシヨン(労働者が土地資本の収用)の如き、社会主義的に用ゆれば、特殊の意味を生ずるのが沢山ある、是まで一様に労働組合と訳された文字にも、ギルド、トレードユニオ
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