同じである、病苦の甚しくないだけ更に楽かも知れぬ。
これ私の性の獰猛なるに由る乎、癡愚なるに由る乎、自分には解らぬが、併し今の私に人間の生死、殊に死刑に就ては、粗ぼ左の如き考えを有って居る。
二
万物は皆な流れ去るとヘラクリタスも言った、諸行は無常、宇宙は変化の連続である。
其|実体《サブスタンス》には固より終始もなく生滅もなき筈である、左れど実体の両面たる物質と勢力とが構成し仮現する千差万別・無量無限の個々の形体《フォーム》に至っては、常住なものは決してない、彼等既に始めが有る、必ず終りが無ければならぬ、形成されし者、必ず破壊されねばならぬ、生長する者、必ず衰亡せねばならぬ、厳密に言えば、万物総て生れ出たる刹那より、既に死につつあるのである。
是れ太陽の運命である、地球及び総ての遊星の運命である、況《ま》して地球に生息する一切の有機体をや、細は細菌より大は大象に至るまでの運命である、これ天文・地質・生物の諸科学が吾等に教ゆる所である、吾等人間|惟《ひと》り此|鈎束《こうそく》を免るることが出来よう歟《か》。
否な、人間の死は科学の理論を俟つまでもなく、実に平凡
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