な覚悟を為し得ることと、肉体の苦痛を伴わぬこととは他の死に優るとも劣る所はないかと思う。
左らば世人が其を忌わしく恐るべしとするのは何故ぞや、言う迄もなく死刑に処せられるのは必ず極悪の人、重罪の人たることを示す者だと信ずるが故であろう、死刑に処せらるる程の極悪・重罪の人たることは、家門の汚れ、末代の恥辱、親戚・朋友の頬汚しとして忌み嫌われるのであろう、即ち其恥ずべく忌むべく恐るべきは、刑に死すちょうことにあらずして、死者其人の極悪の質、重罪の行いに在るのではない歟。
仏国の革命の梟雄マラーを一刀に刺殺して、「予は万人を救わんが為に一人を殺せり」と法廷に揚言せる二十六歳の処女シャロット・ゴルデーは、処刑に臨みて書を其父に寄せ、明日[#「明日」に「(ママ)」の注記]に此意を叫んで居る、曰く「死刑台は恥辱にあらず、、恥辱なるは罪悪のみ」と。
死刑が極悪・重罪の人を目的としたのは固よりである、従って古来多くの恥ずべく忌むべく恐るべき極悪・重罪の人が死刑に処せられたのは事実である、左れど此れと同時に多くの尊むべく敬すべく愛すべき善良・賢明の人が死刑に処せられたのも事実である、而して甚だ尊敬
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