っとうすることを得るであろう。わたくしは、かような世の中が、一日も早くきたらんことをのぞむのである。が、すくなくとも、今日の社会、東洋第一の花の都には、地上にも空中にも、おそるべき病菌が充満している。汽車・電車は毎日のように衝突したり、人をひいたりしている。米と株券と商品の相場は、刻々に乱高下している。警察・裁判所・監獄は、多忙をきわめている。今日の社会においては、もし疾病なく、傷害なく、真に自然の死をとげうる人があるとすれば、それは、希代の偶然・僥倖といわねばならぬ。
 実際、いかに絶大の権力を有し、百万の富を擁《よう》して、その衣食住はほとんど完全の域に達している人びとでも、またかの律僧や禅家などのごとく、その養生のためには常人の堪えるあたわざる克己・禁欲・苦行・努力の生活をなす人びとでも、病なくして死ぬのは、きわめてすくないのである。いわんや、多数の権力なき人、富なき人、よわき人、おろかなる人をやである。彼らは、たいてい栄養の不足や、過度の労働や、汚穢《おわい》なる住居や、有毒なる空気や、激甚なる寒暑や、さては精神過多等の不自然な原因から誘致した病気のために、その天寿の半ばにも達
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