しばしば矛盾もし、衝突もした。しかし、この矛盾・衝突は、ただ四囲の境遇のためによぎなくせられ、もしくは養成せられたので、その本来の性質ではない。いな、彼らは、完全に一致・合同しうべきもの、させねばならぬものである。動物の群集にもあれ、人間の社会にもあれ、この二者のつねに矛盾・衝突すべき事情のもとにあるものは滅亡し、一致・合同しえたるものは繁栄していくのである。
そして、この一致・合同は、つねに自己保存が種保存の基礎であり、準備であることによっておこなわれる。豊富なる生殖は、つねに健全なる生活から出るのである。かくて新陳代謝する。種保存の本能が、大いに活動しているときは、自己保存の本能は、すでにほとんどその職分をとげているはずである。果実をむすばんがためには、花はよろこんで散るのである。その児の生育のためには、母はたのしんでその心血をしぼるのである。年少の者が、かくして自己のために死に抗するのも自然である。長じて、種のために生をかろんずるにいたるのも、自然である。これは、矛盾ではなくして、正当の順序である。人間の本能は、かならずしも正当・自然の死を恐怖するものではない。彼らは、みなこの
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