忌すべき理由もないのである。
それならば、すなわち、刑死はどうか。その生理的に不自然なことにおいて、これら諸種の死となんの異なるところがあろうか。これら諸種の死よりも、さらに嫌悪し、哀弔すべき理由があるであろうか。
五
死刑は、もっともいまわしく、おそるべきものとされている。しかし、わたくしには、単に死の方法としては、病死その他の不自然と、はなはだえらぶところはない。そして、その十分な覚悟をなしうることと、肉体の苦痛をともなわぬことは、他の死にまさるともおとるところはないのではないか。
それならば、世人がそれをいまわしく、おそるべしとするのは、なに故であろぅか。いうまでもなく、死刑に処せられるのは、かならず極悪の人、重罪の人であることをしめすものだ、と信ずるが故であろう。死刑に処せられるほどの極悪・重罪の人となることは、家門のけがれ、末代の恥辱、親戚・朋友のつらよごしとして、忌みきらわれるのであろう。すなわち、その恥ずべく、忌むべく、恐るべきは、刑で死ぬということにあるのではなくて、死者その人の極悪の性質、重罪のおこないにあるのではないか。
フランス革命の梟雄
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