買った。それから果物屋で真赤に熟した林檎《りんご》を買った。彼は喉をグビグビ云わせながら家へ帰った。
太い真白な西洋蝋燭は久し振りで快よい照明を与えた。彼は夢中になって食パンに食いついた。それから林檎に齧《かじ》りついた。
腹が十分になって少し余裕が出ると、彼は久しく吸わなかった、煙草が無性に欲しくなった。彼は再び外に出て煙草を買った。胡坐《あぐら》を掻きながら、一息煙を吸うと得も云われない気持だった。つい先刻死を決した自分が、恰《まる》で別人のように思われた。
妻はどうしたのか中々帰って来なかった。
彼は悠然と構えてはいたが、実は一刻も早く妻の顔が見たいのだった。早く彼女と喜びを分ちたかった。が、妻は容易に姿を見せないのだった。
彼は少し不安になって来た。彼女の身に何か異変が起ったのではないか。もしや自動車にでも轢《ひ》かれたのではなかろうか。或いは金策が出来ない為に、無分別な考えを出したのではなかろうか。彼の不安は次第に募って来た。
もしや彼を見限って逃げたのではなかろうか。万々そんな事はないと思いながら、友木は悪い方へと考えが向くばかりだった。
いや、矢張り果《はか
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