》ない望みをかけながら、知人から知人へとうろつき廻っているのだろう。友木は考え直した。然し、それにしては遅過ぎる。事によったら自動車に――友木は気が気でなかった。
この時、ふと彼は部屋の中に変ったものを見つけた。
部屋の中ほどの床板の上に、燃えさしの短い蝋燭が立っているではないか。彼が先刻この部屋を出かけた時には、最後の蝋燭が燃え切ったので、現にその痕《あと》が一たらしの蝋の上に、真似ばかりの尖《さき》の焦げた芯がついたまま、別に床板に残っている。して見ると、この燃えさしの蝋燭は、彼が出てから誰かが持って来たものだ。無論それは伸子に違いないのだ。
では、妻は一度帰って来たのだ。そうして、彼の姿が早えないので、又どこかへ出かけたものと見える。一体どこへ出かけたのだろうか。出かけたにしても、行く当《あて》もない彼女はもう帰って来そうなものだ。彼は一層不安になり出した。
彼は外に出て妻を探そうかと思った。然し、当がないのであるから行違いになる恐れがある。彼はどうする事も出来ない不安に、気をいら立たせながら、四辺を見廻した。
と、部屋の隅に手紙らしいものが置かれてあるのが、初めて眼に
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