罠に掛った人
甲賀三郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)疾《と》く
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一割位|貰《もら》える
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]
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一
もう十時は疾《と》くに過ぎたのに、妻の伸子《のぶこ》は未《ま》だ帰って来なかった。
友木《ともき》はいらいらして立上った。彼の痩《やせ》こけて骨張った顔は変に歪んで、苦痛の表情がアリアリと浮んでいた。
どこをどう歩いたって、この年の暮に迫って、不義理の限りをしている彼に、一銭の金だって貸して呉《く》れる者があろう筈《はず》はないのだ。それを知らない彼ではなかった。だから、伸子が袷《あわせ》一枚の寒さに顫《ふる》えながら、金策に出かけると云った時に、彼はその無駄な事を説いて、彼女を留めた。然《しか》し、伸子にして見ると、このどうにもならない窮境を、どうにかして切抜けたいと、そこに一縷《いちる》の望みを
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