りませんか?」
 私は黙って彼について焼けた方へ歩いた。半焼けの器物が無惨に散らばって、黒焦《くろこげ》の木はプスプスと白い蒸気《いき》を吹いていた。火元は確に台所らしく、放火の跡と思われる様な変った品物は一つも見当らなかった。
「どうです、やはり砂糖が焦げていますね」松本の示したものは、大きな硝子《ガラス》製の壷の上部がとれた底ばかしのもので、底には黒い色をした板状のものが、コビリついていた。私は内心にあの青木の叫び声を聞いて駆けつけた時、「砂糖が焦げたのだなあ」と独言《ひとりごと》を云ったのを、ちゃんと聞いていたこの青年の機敏さに、驚きながら、壷の中のものは砂糖の焦げたのに相違ない事を肯定する外はなかった。
 彼はあたりを綿密に調べ出した。その中に、ポケットから刷毛《はけ》を出して、手帳を裂いた紙の上へ何か床の上から掃き寄せていたが、大事そうにそれを取上げて私に示した。それは紙の上をコロ/\ころがっている数個の白い小さな玉であった。
「水銀ですね」私は云った。
「そうです。多分この中に入っていたのでしょう」彼はそう答えながら、直径二|分《ぶ》位の硝子の管の破片を見せた。
「寒暖計が
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