を起し、突差《とっさ》に敷物の下かなんかに秘《かく》した、そうして仮死を粧《よそお》うていたに違いありません。新聞で宝石の紛失を知った賊は、岩見の所為と見たでしょう。そこで兇漢は彼の計画を齟齬《そご》せしめ、あの宝石を奪われたのを知った時、如何《いか》に之を取返そうと誓ったでしょう。無論彼としては出来るだけの捜査をしたに相違ありません。そうしてあの妙な符号はたしかに宝石の隠し場所を示したものであることを、看破したのです。然しそれは単に岩見の心覚えに止《とゞ》まって、或る地点――それは岩見にとっては容易に覚えて居られる地点であり、それから先を暗号によって心覚えにしたのですから、暗号は解けてもその地点は判らないために、どうする事も出来ないのです。そこでかの兇漢は岩見を一旦官憲の手で捕えさせ、そして自分が之を放免すると云う苦肉の方法を選んだのです。然しそれも岩見の品川行きと云う皮肉な行為で駄目になりました。尤もあとで考えれば、岩見の隠し場所は岩見でさえもどうにもならぬ状態にあったのです。
 所が兇漢は偶然宝石の在所《ありか》を知りました。それは今回の事件で岩見がある家に忍び込んだと云う事から
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