てカフス釦を見て茫然としている隙にボーナスの袋を抜いたのです。次に岩見が時計を見て二度|吃驚《びっくり》する暇に、袋の中から金を抜き取ると共に再び彼のポケットに返し、素早く万引した宝石をズボンのポケットに投げ入れて退却したのです。それからあとは彼が刑事に捕まり、番頭までに証明せられる様になったのです。この兇漢が一旦《いったん》自分が罪に陥し入れた岩見を、夜分に又復《また/\》刑事に化《ばけ》るような危険を冒して、岩見を連れ出したのは何のためでしょうか。それは恐らく岩見のあとをつける為めです。もし岩見が何か不正な事をして、盗んだ品を何処《どこ》かに隠しているとしたら、彼が窃盗の嫌疑で捕われ再び放された時に、その隠場所へ心配して見には行かないでしょうか。それが兇賊の目的だったのです。岩見は何を隠していたのでしょう。それはあの有名な事件で紛失した宝石の一つです。商会に入った賊は実に岩見の叫び声のために、一物も得ずに逃げたのです。そして支配人があわてゝ机上の宝石を掴んで金庫に入れる時に、その中の最も価値ある一つの宝石は下へ落ちたのです。
支配人が賊を追って行くと、岩見はその宝石を見つけ、悪心
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