の時は異状なかったのですね?」
「ありませんでした」
「何の用で帰ったのですか?」
「大した用ではありません」
その時に警官が検事の前に来た。検死の結果殺害が凡そ午後十時頃行われた事が判ったのである。小児《こども》の死体は外部に何の異状もないので解剖に附せられる事となった。同時に菓子折も鑑定課に廻わされた。
時間の関係から、殺人と火事とが連絡があるかないかと云う事が刑事間の論点になったらしい。
兎に角、ある兇漢が男の方と格闘の上、枕許にあった皮むき庖丁で刺殺し、子供を連れて逃げ様とする女を後《うしろ》から殺した。それから死体を隠蔽《いんべい》しようと思って床板を上げたが果さなかった。襖を切ったのは、薪《まき》にして死体を燃す積ではなかったろうか。
「然し、厳重に夜警をしている中を、どうしてやって来て、どうして逃げたかなあ?」刑事の一人が云った。
「そりゃ訳もない事です」松本が口を出した。「夜警を始めるのは十時からですから、それ以前に忍び込めるし、火事の騒ぎの時に大勢に紛れて逃げる事も出来ましょうし、或は巡回と次の巡回の間にだって逃げられます」
「君は一体なんだね?」刑事は癪《しゃ
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