をみて、世上で二人の不和を云々するのは全く誤伝だとおもった。(しかし、これは私の浅薄なおもいちがいだった)
私たちの話はなかなかつきなかった。ものの二時間もしゃべりつづけたと思う。そのときに突如として潮見博士は飛びあがった。私はびっくりして博士の顔を見たが、土のように蒼かった。博士は悲鳴をあげながら背後のドアに飛びついて、部屋の外に飛びだした。あまりに不意の出来ごとで私にはなんのことやらわからなかったが、私はなんでも床の上をはっている珍らしい一匹の蜘蛛を見たように思った。その蜘蛛はたぶん潮見博士の足もとへはって行ったのだろう。
「とたてぐも[#「とたてぐも」に傍点]の一種なんだよ。潮見君は毒蜘蛛と間違えたんだよ」
その床の上をはっている蜘蛛をさして辻川博士はそんなことをいったと思う。(私はあとに臨検した警官にもそう証言した)
が、そのときはそんなことをくわしく耳に留めている余裕はなかった。というのは、潮見博士が飛びだすと同時にドアの外でギャッという悲鳴とともに、ドタドタという物の落ちる音がしたからで、私は驚いてドアの外へでようとした。すると、辻川博士があわてて私を抱きとめて、
「
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