ばかり前の夏の終り時分のことだった。辻川博士から呼ばれて午後七時ごろ私がこの部屋にはいってきたときには、辻川博士は私がいまかけている安楽椅子に身体をうずめて、あい対した潮見博士としきりになにか話をしていた。辻川博士の調子はふだんとちがってひどくはしゃいでいて別人のように高笑いをしたりしていた。博士は私の姿をみとめると、すぐに立上って、かたわらの椅子をすすめて潮見博士を紹介した。(潮見博士は入口のドアをちょうど背中にして腰をおろしていた。したがってあい対していた辻川博士は、ドアのほうをむいていたわけで、私のはいった姿は辻川博士にすぐみえたわけである。潮見博士の位置はのちに重大なる関係をもってくるので、ちょっとつけ加えて置く)
それから私たち三人は愉快に談笑をかわした。まえにものべたとおり、辻川博士が平素とちがって、ひじょうに快活だったし、それに話上手の潮見博士がいたし、辻川博士と二人きりのときには、いつも話のきっかけにきゅうする私も、つい釣り込まれて大いに喋った。私はこのときに潮見博士のユーモアをまぜた独特の揶揄や皮肉と、よくまわる舌とに感心して、それにこころよくあいづちを打つ辻川博士
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