を軸にして静かに廻転しているのだ! 私は突如思いあたった。私はこの部屋にはいるとまもなく机の裏側に妙なスイッチがあるのを見つけて、パチパチとひねってみて、結局元どおりにしたつもりだったが、あのために電路が閉じて、この直径二間半の鉄筋コンクリートの丸い塔が廻転をはじめたのにちがいないのだ。私は塔の廻転した距離を目測したが、階段の移動は二間半ぐらいで、角度にして約百二十度ぐらいだった。移動に要した時間は約一時間であるから、廻転速度は約三時間に三百六十度すなわち一廻転するものと思われた。
私はすぐスイッチをきろうかと考えたが、ふと完全に一廻転させて元の位置にかえしたほうがよいと考えて、そのままに放置した。そうしてふたたび部屋の中央の安楽椅子に腰をおろして、なんのためにこの研究室が廻転するようにつくられているのであろうかと静かに考えはじめた。
私はハッとあることに思いついた。私はあまりに恐ろしい考えに、思わずグラグラとした。私はいたむ頭をかかえて立ちあがった。そうして狂気のごとく部屋のなかを歩きまわった。それから私はあらあらしく部屋のなかのものを手当りしだいに押しのけて、なにものかを見つけだそうと焦った。私は辻川博士の秘密が知りたかったのである。この研究室のどこかに辻川博士の秘密が隠されていると信じたのである。
まるで狂ったように荒れまわっていた私は、とうとう書架のうしろの秘密の隠し場所から、故辻川博士の日記を発見した。私はふるえる手でバラバラとページをくった。そうして、私はやはりそこに博士の秘密を見出したのだった。
* * *
×月×日
Sを殺そうと決心してから三ヵ月になる。このごろになってようやく一つのプランを思いついた。Sを殺さなければならない理由は、まったく主観的のもので、おれは良心を安んじさせるためにジャスチファイする必要はないと思う。おれは世間をあざむけばよいのだ。良心をあざむく必要はすこしもない。
おれはSを殺そうという考えが、すこしでもにぶりかけたら、彼がおれに加えたかずかぎりなき有形無形の侮辱を思いだせばよいのだ。Sは二人だけの場合であると、公開の席であるとにかかわらず、諧謔《かいぎゃく》の仮面のもとに、おれをあざけり、おれを軽蔑し、おれを圧迫し、おれをののしりつづけた。このことは彼自身が意識していると意識していないと
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