は歩くというんですって。どうせ来た序《つい》でだし、もう少しの事だから、家まで送ろうというと、いや、ひょっと信造が待ってると、自動車の音が分るし、自動車に乗って来たなんて事が分ると、奴の機嫌を損じるから、汽車で来た心算《つもり》でこゝから歩くって、諾《き》かないんですって。そこで宅は別荘の大分手前で車を停めて、卓一さんを下して、そのまゝ引返して来たんです。卓一さんはその時は別に胸が苦しいような様子だったとは聞かなかったのですが」
之ですべては明瞭になった。もう之以上は訊くべき事もないと思ったので、刑事は腰を上げた。
「どうも、お邪魔しました」
「宅が帰り次第、お手伝いに参りますからって、信造さんに宜しく仰有《おっしゃ》って下さい」
喋《しゃべ》り疲れたか、おかみはホッとしたようにいった。
夜店の連珠
「なるほど、それじゃ問題にならんね」
望月刑事の報告を聞いた榎戸警部は煙草の灰を叩き落しながらいった。
「えゝ、どうも犯罪はないらしいですよ。卓一の死因が病死だとするとね」
「念の為再検視をしたが、全く狭心症の為と判明した。だから、殺人事件では絶対にない。そ
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