事と知っても格別そう驚かなかったが、茅ヶ崎署から来たのだと気がつくと突然眼の色を変えて叫んだ。
「卓一さんが死んだって、ど、どうしたんでしょうか。先程《さっき》信造さんから知らせがあったんですけれども、宅《うち》が出ているもンでどうしようもないんですよ」
「狭心症でね」刑事は静かにいった。「信造さんの別荘で死んでいたんですが、何ですか、卓一さんは不断から心臓が弱かったですか」
「それがね、丸で嘘見たいなんですよ。顔色は蒼白くって、病人臭い所はありましたが、とても元気な人で、押《おし》が強くて、つまり心臓が強いんでしょう。所が本当の心臓はいつ停って終《しま》うか分らないんですって。まさかと思っていましたが、本当に停って終ったんですわねえ」
「昨日はずっと宅に居られたんですか」
「いゝえ、卓一さんがじっと宅になんかいるものですか。どこへ行くんだか毎日朝から飛歩いていますよ。よくまア、あゝ用があると思いますよ。自分の事はこれっぱかしもしないで、人の事ばかり世話を焼いて、いつも懐中《ふところ》はピイ/\の癖に大きな事ばかりいって、信造さんの懐中ばかり当にしてるんですよ。信造が死にや、奴の財産は
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