と五十|恰好《かっこう》の赤顔にでっぷりと肥《ふと》った紳士は丁寧に礼をしながら、「私は下村でございます」
「私は佐瀬でございます」三十を少し越したかと思われる頭髪を綺麗に別《わ》けた、色白の背の高い紳士は云った。友は椅子をすすめながら、
「どうも暑くなりまして。……して御要件は」
「それがその、ええちと他聞を憚《はばか》る事でございまして」商会主は汗を拭きながら云った。
「その点は御心配に及びません。岡田君はいつも私と一緒に働いて呉《く》れる人で、私同様と御思い下さって差支えありません」
「さようでございますか」と商会主は漸く落ち着いて、「実は何でございます。今回私共が×××省御主催の展覧会に出品いたして居りまする真珠塔につきまして、誠に不思議な事が起りましたので、早速警視庁へ御相談に来《あが》りました所、あちらではそう云う事は却って貴君《あなた》に御願い申すがよかろうと云う事で、甚《はなは》だ御迷惑ながら御依頼に上った次第でございます。新聞ではいろいろに申しますが、別に私共はM商店に対抗して立つのどうのと云う事はございませんが、私は元来こう云う事が好きでございまして、東洋独特の工芸
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