さっと蒼白に変じた。其時橋本の凜《りん》とした声は響いた。
「イヤ御心配に及びません。それは偽物です」
× × × ×
「今度の事件は頗る簡単だよ。君」私が桜木町の彼の家に帰りついて、香の高い紅茶をすすりながら相変らずの彼の敏腕を賞めると、彼はこう云った。
「つまり二から一引く一さ。現場を見て第一に感じたのは、あれ丈《だけ》の塔をスリ替えるのに窓からやると云うのは可怪《おか》しい。あの高い窓から塔を一つ運び出し一つは運び入れると云う事は、一寸不可能じゃないかね。それにもう一つ変なのは、硝子の音がしたので逃げたのではなく、逃げる時にこわした事だ。つまり偽物の塔は出し放しにして逃げたんだね。まるで忍び込んだのを広告するようなものだ。そこで僕は別の方面を考えた。つまりスリ替えられて居ないんじゃないかと。然し曲者の入った事と、真珠のうちの一つがスリ替えられて居る事は事実だ。そこで甚だ漠然としては居るが、真物を偽物と思わせる為めに一つの真珠をとり替える為めに忍び込む。これは可能だからな。そうして殆ど佐瀬のみに可能じゃないか。鍵も彼が持っている。発見したのも彼だ。そこで少しばか
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