に看破《みやぶ》られ止むなく宅へ持ち帰ったが、八万円もヒド工面で造《こし》らえたので、もう夜逃げの外はないと覚悟して居ると、不思議な買手が現われて助かったのである。その買手はマッカレーの紹介だと云って訪ねて来た男で結局七万円で譲ったのだった。
「黒眼鏡をかけた脊の高い、少し猫脊のような人で頤鬚《あごひげ》をつけて何だか聞き覚えのある声の人でしたが矢張初対面で、少し怪しい所もありましたが、背に腹は代えられず一万円の損で譲りました。この上貴君方に訴えられれば申分ありません。天罰です」
「イヤ、私は貴君を告発しなければならない位置に居るものではありません。御話しに偽《いつわり》がないと云う条件で、別に荒立てる必要はありません」と友が云った。
「天地神明に誓って偽でない事を断言します」
保命館を出て駿河台下の方へ来かかると折柄、そこの大時計は十時を打ち出した。折角|手繰《たぐ》った糸が又この異様な新な買手の為《た》めにプッつりと切り離たれたのは、友にとって打撃に相違なかったが、左程落胆している模様も見えなかった。ここで私達は別れたのである。
翌日午後橋本から電話で帰りに寄って呉れと云うの
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