今度の展覧会の真珠塔だがね」友は扇風器を私の方へ向けながら、「何か変った事を聞かないかい」
「イヤ。いろいろ評判は聞くが変った事は聞かないね。何か事件でも起ったのかね」
友は黙って数葉の名刺を私に渡した。一枚は警視庁の高田《たかだ》警部の名刺で、「東洋真珠商会主|下村豊造《しもむらとよぞう》氏貴下に御依頼の件あり参上仕るべく何分|宜《よろ》しく願上候《ねがいあげそうろう》」と書いてあり、一枚は東洋真珠商会主下村豊造氏の名刺で、一枚は同製作部主任|佐瀬龍之助《させりゅうのすけ》と書かれて居た。
「この二人が少し前に会いに来たそうだ」友は私の見終るのを俟《ま》って云った。「恰度《ちょうど》僕が留守だったので後程伺うと云い置いて帰ったそうだよ」
先年東京に××博覧会が開かれた時、其《そ》の一館に有名なるM真珠店が数十万円と銘打って、一基の真珠塔を出陳して世人を驚かした事は、尚諸君の記憶に新《あらた》なる所であろう。所が本月より×××省主催の美術工芸品展覧会が、上野竹の台に開催せらるると、近来M真珠店に対抗して漸く頭角を現わして来た東洋真珠商会は、先年のM商店の出品物を遥《はるか》に凌駕《
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