真珠塔の秘密
甲賀三郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)漸《ようや》く

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)東洋真珠商会主|下村豊造《しもむらとよぞう》

[#]:入力者注 主に外字の注記や傍点の位置の指定
(例)[#地付き](一九二三年八月号)
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        一

 長い陰気な梅雨が漸《ようや》く明けた頃、そこにはもう酷《きび》しい暑さが待ち設けて居て、流石《さすが》都大路も暫《しばら》くは人通りの杜絶える真昼の静けさから、豆腐屋のラッパを合図に次第《しだい》に都の騒がしさに帰る夕暮時、夕立の様な喧《やかま》しい蝉の声を浴びながら上野《うえの》の森を越えて、私は久し振りに桜木町《さくらぎちょう》の住居に友人の橋本敏《はしもとびん》を訪ねた。親しい間とて案内も乞わずにすぐ彼の書斎兼応接室の扉《ドアー》を叩いて中へ入ると、机に向って何か考えて居たらしい彼は入口へ首を捻《ね》じ向けながら、
「やあ、君か。久し振りだね。まあ掛け給え」
「昼間は暑くてとても出られないからね。上野の森は然《しか》し悪くはないね」
「上野と云《い》えば君、
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