、度々刑事の来訪を受けるし、家の周囲にも絶えず監視の眼が光っているようだったので、日曜学校の生徒も遠退き、こちらからも遠慮するようになって今は訪ねる人もなく、彼女も只管《ひたすら》謹慎して、滅多に外出しないのだったが、今日は朝方荷物を飯倉一丁目の高山――それは信者の仲間だった――の家に送り出して終《しま》うと、気分がすぐれないように襟に顔を埋めてじっと一間に坐っていた。
さらでだに少人数には広過ぎた家は夫なき今、小女一人を対手では恰も空家にでも住んでいるようにガランとしていた。
昼食後も亦元の所に坐って茫然《ぼんやり》薄日の差す霜解けの庭を眺めていたが、三時を過ぎると物憂げに立上って、気の進まぬように着物を着替え初めたのだった。
彼女がキチンとした身装《みなり》をして蒼ざめた顔を俯向けながら、門の外へ出たときは、かれこれ四時だった。
二、三歩門の前を離れると、彼女はきっと頭を上げて鋭く四辺《あたり》をグルリと見廻して、人影のないのを見きわめると、又トボトボと歩き出した。
然し彼女は誤っていたのだった。
彼女が安心して歩き出すと、隣の家の勝手口に置いてあった大きな埃溜《ごみた
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