のだった。石子刑事は大した事件だとは思わなかったが、快く引受けてやったのだった。
「君の話によると、中々容易ならん奴だぜ」
渡辺刑事は重ねて云った。
「うん、それ程でもないが、僕は第六感と云うのか、どうも奴がたゞの窃盗ではないような気がするのだ。殊によったら何か重大な犯罪でもやっていやしないかと思うのだ。渡辺君、何分宜しく御助力を頼むぜ」
石子刑事は前途に何か期する所のあるように答えた。
折柄電車は台町の二丁目で止まった。
白金三光町から府下大崎町に跨った高台の邸宅は陽を受けた半面を鮮かに浮き出させながら、無人境のように静まり返っていた。
石子刑事は渡辺刑事を伴ってとある横丁に這入《はい》った。
「あの家なんだ」
石子は少し前方の可成大きな二階家を指し示しながら、
「僕は兎《と》に角当って見るから、君はこの辺で見張りをしていて呉れ給え。そしてもし僕が十分間出て来なかったら、なんとか旨《うま》い口実をつけて様子を見に来て呉れ給え」
渡辺刑事は石子が先輩振って指図がましく振舞うのが不愉快だった。先輩と云っても石子はほんの少し許《ばか》り早く私服になったので、年齢から云っても
前へ
次へ
全430ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
甲賀 三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング