下げに行く。どうだい、嫌疑を避けるには巧妙な方法じゃないか」
「成程、では支倉が――」
 石子が云い続けようとすると、一人の刑事が顔色を変えて飛び込んで来た。
「今支倉の隣家から電話で、支倉の家から荷物を積み出したそうです」
「何っ!」
 根岸刑事は飛び上がった。

 支倉《はせくら》の家から荷物を積み出したと云う隣家からの報告を聞いて、根岸刑事は勇躍した。
「君、兎に角運送店の名前をしっかり見といて貰うように云って呉れ給え」
 電話を聞いた刑事にそう云うと、根岸は石子の方を向いて云った。
「石子君、荷物の追跡だ。第一に運送店を突留めるのだ」
 分り切った事まで指図がましく云う根岸の言葉は決して愉快ではなかったが、今の石子刑事にはそんな事を考えている余裕がなかった。彼は折好く居合した渡辺刑事と一緒に足取も軽く、今度こそは逃さないぞと云う意気込で三光町に出かけた。
 隣家について聞いて見ると、出した荷物は支那鞄に柳行李《やなぎごうり》合せて四、五個らしく、手荷車で引出したのだが、さて運送店の事になると少しも手懸りがない。引出す所を目撃していたと云う女中にいろ/\聞いて見たが、半纏《はんて
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