だった。
「ちょっ、この上はあの怪しい写真屋に泥を吐かせる外はない。何か旨《うま》い工夫はないかなあ」
老練な根岸刑事もあぐね果てこんな事を考えながら腕を組んだ。
朧《おぼろ》げながら支倉の旧悪を調べ上げた石子刑事は久々で署へ出勤した。刑事部屋には窓越しに快い朝日が差していた。
「ふん」
逐一話を聞いた根岸刑事はじっと考えながら、
「古い事だし放火の方は本人に口を開かせるよりほかはないね。女中の方は成程疑わしいには疑わしいが、何にしても死骸が出なくては手がつけられない。ひょっとすると生ているかも知れないからね」
「然しね、根岸君」
石子は云った。
「三度移転して三度ながら火事に遭っているとは可笑《おか》しいじゃないか」
「うん、確に可笑しい。三度ともと云うのは偶然過ぎるからね。所がね石子君、困る事はそう云う偶然が絶対にないと云うことが出来ない事だ。何でも一度は疑って見る、之が所謂《いわゆる》刑事眼で、又刑事たるものは当然、然《しか》あるべきなんだが、之が刑事が世間から爪弾きされる一つの原因になっているんだから困るよ。職業は神聖である。刑事も一つの職業である。刑事たるものは絶えず
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