らない人でございました」
「その女中と云うのはどんな風でした」
「大人しい子で、器量もよく、それに仲々よく働きまして重宝な子でございました。病気になりまして知合の家に下げられ、そこから病院に通う事になりましても、別に私共を恨んでいる様子もありませんでした。親が裕福でありませんので、外出着にはいつも年の割に地味な黒襦子《くろじゅす》の帯を締めて、牡丹の模様のメリンスの羽織を着て居りました。行方が知れずなりました日も、やはりその身装《みなり》で病院へ行くと云って、いつものように元気よく出て行ったのだそうでございますが、その姿が眼に見えるようでございます」
彼女はそう云いながらそっと眼を拭った。
追跡
石子刑事が四、五日間支倉の前身を洗う為に奔走している間、根岸刑事の采配で渡辺始め多くの刑事が、支倉の所在を追跡して廻った。高飛をした形跡は更にないのであるが、刑事達の苦心は少しも報いられないで、杳として何の手懸りも掴むことが出来なかった。石子刑事へ当てた彼の嘲弄の手紙は相変らず毎日のように書留速達で署へ飛込んで来た。神楽坂署では署長始め署員一同がジリ/\していたの
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