った。
色蒼ざめた支倉の細君は頭を垂れて静かに石子刑事の前に坐った。
事件以来既に二回会っているのだが、悠《ゆっ》くり観察もしなかったが今見る彼女は物ごしの静かな、あのいかつい支倉には似合しくない貞淑そうな美しい婦人だった。年もかねて聞いた二十八と云う実際よりは若く見えた。静子と云う名も人柄に相応《ふさわ》しい。
「御主人からお便りはありませんか」
石子は打|萎《しお》れた細君に幾分同情しながら聞いた。
「はい、少しもございません」
「御心配でしょう。然し私の方でも困っているのですよ。別に大した事ではないのですから、素直に御出頭下さると好いんですが、こう云う態度をお取りになると大変ご損ですよ」
「はい、お上に御手数をかけまして申訳けございません」
「何とか一日も早く出頭されるようにお奨め下さる訳に行きませんでしょうか」
「はい、居ります所さえ分りますれば、仰せまでもございません。早速出頭致させるのでございますが、何分どこに居ります事やら少しも分りませんので、致方ございません」
彼女は澱《よど》みなく答えた。
「ご尤もです」
女ながらも相当教養もあり、日曜学校の教師をしている
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