に反して、毫も自己に利益の点がないので、獄中悶々やる方なく、前述の如く裁判長を忌避したが、彼も元より成算があっての事でなく、むしろ自暴自棄的の手段であった。最後の土壇場に来ても尚、跳起きて隙もあらば反噬《はんぜい》しようとする彼の執念には只々舌を巻くの他はない。
あゝ、在獄七年余、朝に夕に呪い続けて、いかなる手段を尽しても死刑を逃れ、一度浮世に出でんと努力し続けた忍苦執拗、支倉の如き人間が又と世にあろうか。
因藤裁判長は支倉の忌避の申請を受取ると、直ちに会議を開き合議の上左の決定書を与えた。
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決定
被告人 支倉 喜平
右の者に対する窃盗放火詐欺強姦致傷及殺人被告事件につき、右被告人より裁判長判事因藤実に対し、偏頗《へんぱ》の裁判を為す虞れありとして、忌避の申立を為したるも、右申立は訴訟の遅延せしむる目的のみを以て、為したる事明白なるを以て、刑事訴訟法第二十九条第一項に依り、決定する事左の如し。
主文
本件忌避の申立は之を却下す。
大正十三年六月二十日
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[#地から4字上げ]裁判長以下署名捺印
決定書は直に市ヶ谷刑務
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