を出した。自ら名乗る冤枉者喜平、只一度浮世の空気に触れて見たいと云う、悲惨な突きつめた彼の願も、彼自身の行状と、冷い法規の定むる所に従って、遂に許さるべくもなかったのだ。元より書類を隠した云々の事は根もない事だが、繰返し訴える彼の執拗さと根気は驚く外はない。
「閣下に之迄再三お目にかゝれましたが、其際に閣下は何時でも、『お前の記録としてのものは未だ少しも見ていない。又上願書としてのものも少しも読んでいない。でお前に罪があるか、罪がないかはまだ分らない。お前が云う如く庄司利喜太郎がお前を拷問にかけ、条件付で約束、一時書類を隠し捏造《ねつぞう》したものである、偽造したものであると云う事も何も分らない。で此手紙は出さす訳に行かない、お前の事件についてはこの土用休暇を利用して緩っくら調べて見ようと決心しとる。休み中によく調べて公明無私な裁判をしてやる気で居る……云々』との御言葉で御座いましたが、最早夙うに慰労休暇も過ぎ去り、次回の公判期日も今日明日に迫っとる事でありますれば、もう事件記録としてのものや、上願書というものやら御調べずみになり、庄司利喜太郎は喜平をアリとアラユル拷問に懸け、そして条
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