他重要の件につき一度御面謁を賜り御伺い御願いさせていたゞき度、恐入ります、一度至急に御呼出の上、御会いいたゞけますよう、伏而《ふして》懇願《こんがん》いたします」
「閣下に至急御目にかゝり、いろ/\陳述させていたゞき、且つ閣下の御意見のおありになる所を詳細御聞かせ頂きたいのであります、就ては恐入った御願いですが、どうぞ至急に御会いいたゞけますよう、此処切に伏而懇願致します」

 二度までも切なる嘆願書を受取って裁判長も弱った。支倉が何事を訴えようとしていたか、それは想像に難くない所で、裁判長にも予《あらかじ》め察しはついていた。それに支倉は公式の法廷では狂態を尽して審問に答えていないのだから、私《ひそ》かに、裁判長に訴えたいと云うのは筋違いである。裁判長は然し流石に人間である。彼の哀れな心を押し計って面晤《めんご》を許したが、もとより彼の望みは叶えるべくもなかった。
 かくて彼支倉は公判のある度に法廷に怒号咆哮し、恨み重なる人々へ、草を分け根を掘って、それからそれへと脅迫の手紙を送りながら、未曾有の東都大震災にも幸か不幸か身を完うし、大正十二年も秋とはなったが、彼は再び根気よくも保釈願
前へ 次へ
全430ページ中396ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
甲賀 三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング