支倉もきっと先生の御好意を喜ぶ事でしょう」
 木藤は手紙の束を無雑作にポケットにつっ込んだ。

 神戸牧師は支倉の希望だと救世軍の木藤大尉の云うがまゝに、支倉が牧師に宛てた古手紙一束を貸し与えた。
 木藤大尉は感謝の言葉を述べて、今後の事を呉々も頼んで辞し去った。
 大尉の去った後で、牧師は軽い懶《だる》さを覚えながら、一点疚しい所のない彼の公明な行動を、どこの隅からか、支倉が恨めしそうな顔で非難しているように思えて、ともすると灰色の不快な雲が頭に蓋い被さるのだった。
 会見の結果を心配して、聞きに出て来た彼の妻にも一言噛んで吐き出すように、
「何でもないさ」
 と云っただけだった。
 流石の神戸牧師もこの手紙を貸し与えた為に、反って非常な迷惑を蒙る事になろうとは気付かないのだった。
 こゝで話は支倉の事に移る。
 支倉は第一審で死刑の宣告を受けて以来、彼の念とする所はいかにして死の手より逃れるかと云う事だった。その為に彼は弁護士初め会う人毎に冤罪を訴えた。裁判長には書面を以て、神楽坂署に於ける拷問によって虚偽の自白を余儀なくせられたことを繰り返し訴えた。一方神楽坂署の庄司署長以下刑事
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