貫かぬ事のない時代だった。
「そう云う奴は君」
 暫くして庄司署長は云った。
「きっと前にも悪い事をしているに違いない。少し身許を洗って見たらどうだ」
「私もやって見ようと思っていた所でした」
 署長の慧眼を称えるように司法主任は答えた。
 署長の見込は外れなかった。支倉の本籍山形県へ照会すると、果して彼は窃盗の前科三犯を重ねた曲者だった。宣教師の資格も正式に持っているかどうか疑わしかった。
 石子刑事は直ちに彼の上京以来の行動の探査を始めた。
 彼は毎日のように支倉からの嘲弄の手紙を受取って、彼の行方を突留ることの出来ない腑甲斐《ふがい》なさに歯ぎしりをしながら、方々を駆け廻って、それからそれへと溯って、支倉の昔の跡を嗅ぎ廻った。
 支倉は三光町へ来る前は高輪にいた。高輪の前には神田にいた。神田の前には横浜にいた。所が不思議な事には彼は前住地の三ヵ所でいつでも極って火事に遭っているのだった。
 横浜の場合は全焼、神田と高輪の場合は半焼けだった。高輪の時は附近の人に質《たゞ》すと確に半焼けであるにも係わらず、保険会社では動産保険の全額を支払っていた。神田の時は支倉の隣家の人が放火をした
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