たのを尾行すると彼は宅の前を通り過ぎてグン/\歩いて行くのです。所が私は巧に撒かれて終《しま》ったのです」
渡辺刑事は溜息をつきながら一座を見廻した。
旧悪
支倉喜平の一件は署内でも評判になった。勢い大島司法主任は署長に逐一報告しなければならなかった。
「怪《け》しからん奴だ」
話のすむのをもじ/\して待っていた署長は年の割に毛の薄い頭から湯気でも立てるように赫《か》っとして、早口の北陸訛りで怒鳴った。
「そんなやつを抛っとくちゅうやつがあるもんか、関《かま》わん、署員総がゝりで逮捕するんだ」
署長と云うのは、つい一週間程前に堀留署から転任した人だった。前任地では管内の博徒を顫え上らした人で、真っすぐな竹を割ったような気性の人で、よく物の分る半面には中々譲らない所があり、場合によると非常に熱狂的な快男児だった。庄司利喜太郎と云えば無論知っている人がある筈だ。後に警視庁の重要な位置を占めた人である。不祥な事件に責を負って潔《いさぎよ》く誰一人惜しまないもののないうちに、警察界を引退した人だが、当時は大学を出て五、六年の三十二三歳の血気盛りで、こうと思えば
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