軍大尉 木藤《きふじ》為蔵」とあった。
救世軍の木藤大尉と云うのは一向知らない人なので、神戸牧師は暫く名刺を見詰めていたが、支倉の事に就てと云われると、会わない訳にも行かないので、兎に角通すように妻に命じた。
この木藤と云う人は後に分ったのであるが、廃娼運動の急先鋒で、遊廓で廃娼演説をやったり、娼妓の自由廃業を援助したりして、楼主側から非常な圧迫を受けた。然し毫も屈しないで運動を続け、或時は暴力団に包囲されて、鉄拳で乱打されたり、時には無頼漢に匕首《あいくち》を擬して追われたりした、真に死生の間を潜り抜けた勇烈の士だった。
彼はずんぐりした短躯で、見るから頑丈そうな、士官の制服が窮屈そうに見える人だった。
「やあ、初めまして」
木藤は座に着くが早いか、元気よく挨拶をした。
「初めまして」
神戸牧師は丁寧に礼をした。
「中々暑うございますねえ、先生の方の御仕事はいかゞですか。我々の方はこう暑いと骨が折れますよ」
「そうでしょう。あなた方のお仕事は大変でしょう。我々の方は仕事と云っても別に変った事はありません。お恥かしい位です」
牧師は謙遜した。
「いや、我々の方も一向駄目で
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