がね。彼奴《きゃつ》の行動については渡辺刑事が気をつけている筈だよ」
「支倉の奴が私の宅の近所へ来たんですよ」
 石子は思い出したように云った。
「交番で私の住所を調べやがってね。近々私の宅を訪ねると云うので女房は震え上っているんですよ。ハヽヽヽ」
 この時扉が開いて一人の巡査が顔を出した。
「司法主任、電話です」
 急いで出て行った大島警部補はやがて興奮した面持で帰って来た。
「北紺屋《きたこんや》署からだ」
 彼は早口に云った。
「今朝配付の写真に該当する人物が、先般来度々同署へ出頭したそうだ」
「何、なんですって!」
 根岸と石子の両刑事は同時に叫んだ。

「確にあなたの云われる通りの男です」
 若い巡査はうなずいた。
 石子刑事は北紺屋署の陰鬱なジメ/\した一室で彼に相対していた。
「三度来たと思います」
 巡査は続けた。
「何でも車掌の不注意で電車から転がり落ちて、その為に腕に繃帯をしていましたし、医者の証明書見たいなものも持っていました」
「で、損害賠償でも取ろうと云うのですか」
 余りの人もなげな振舞に石子刑事は唇を噛みながら聞いた。
「そうなのです。どうしても電気局|対
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