けていた。
夫が未決に繋がれてからの彼女の辛苦は一通りではなかった。予審廷へも度々呼び出されて、判事から辛辣な訊問をせられるし、附近の人々には嘲笑の眼で見られるし、それに弱味につけ込んで、親切ごかしに騙《かた》りに来る者や、強請《ゆすり》に来る者があった。親類縁者も誰一人助けて呉れるものはなく、稀にそんなのがあっても物質上の援助の出来るものはなかった。只写真師の浅田は時折訪ねては慰めて呉れるけれども、以前の事もあり何か胸に一物ありげで、打解けて心から彼を迎える事は出来なかった。
そんな訳で彼女の一番苦しんだのは金の調達だった。其日々々の暮しには何程の事もいらないとしても、未決監にいる夫への差入、代書人や弁護士に支払う高と云うものは少からぬものだった。それを女手で、ましてや今は世間から指弾されて、近づく人もない時にどうして生み出す事が出来よう。身の廻りのものを一つ売り二つ売りして支えるより仕方がなかった。
彼女の何よりの頼みは今住んでいる家だった。之を売れば纏まった金が手に這入り、有力な弁護士に依頼する事も出来ると考えたので、内々周旋屋に相談して見ると千五百円なら買手があると云う事
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