財産を譲渡して後顧の憂いなきようにする為に、仮にも犯した覚えなき殺人の罪を自白するとは受取れぬ。
 署員が支倉の妻子を思う情を旨く利用して彼に自白を迫ったのだと思う。それは上願書の続きを見るとよく分る。

 支倉の上願書の次ぎにはこう書いてある。
[#ここから2字下げ]
「A、根岸刑事より小生に依頼の件、
 お前は小林貞を殺したと云うて立ってくれ、背負ってくれ、お前が背負ってくれなければ私は署長さんへ対して顔向けが出来ん。どうか背負って行ってくれ、私を助けたと思ってたのむ/\。お前も男だろう。背負って行ってくれたなら俺も男だ。お前が今所有している家屋は聖書会社より差押えられないようにしてやる。そしてあれなる家屋を三千円にて売払い二千円にて小坂に田畑を求め、残り一千円を子供の養育金として銀行に貯蓄して、其利子で行くようにしてやる。妻子を助けてやる。お前はどうせ無罪では出獄できぬ身体、お前は死んで罪なき妻子を助けてやれと幾度となく諭されたのまれたのであります。又こんな事も云われています。俺はお前の為には随分なっているではないか。此間もお前の家の台所の煙突が破れた、修繕するのに金がないと云う
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