は一寸交番へ行って来る。きゃつ事によったら、こゝの近所をうろついたかも知れない」
「君、こう云う奴が僕の事を何か聞かなかったかい」
交番に行くと石子刑事は、そこにいた顔馴染の巡査に支倉の容貌を委《くわ》しく話した。
「えゝ、来ましたよ。朝でした。丁度私の番の時です。そいつに違いないのです」
巡査は答えた。
彼の話によると、今朝方支倉はブラリとこの交番を訪ねて、繃帯をした腕を示しながら、
「私は此間電車から落ちてこの通り怪我をしたのですが、その節傍に居られた石子刑事さんに大へん御厄介になったのです。是非一度お訪ねしてお礼がしたいのですが、あの方のお住居は、どちらでしょうか」
と聞いたのだった。
で、巡査は委しく石子刑事の宅を教えたのである。
「繃帯をしていたって?」
石子は聞き咎めた。
「えゝ」
「怪我をしたようだったかい」
「そうですね、どうもそうらしかったですよ」
どうして怪我をしたのか知ら。二階から飛降りた時かしら。
石子は鳥渡考えて見たが、もとより分る筈がなかった。
「ではね、君、もし今度この辺をうろついていたら、早速捕まえて呉れ給え」
石子はそう云い置いて家
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