滞と云う事を数えている。
 然し今こゝに古我判事の周到なる訊問振りに直面すると、法の遅延などと云う事に不平は洩らせなくなる。もとより古我氏のみならず、すべての判官はいずれも古我氏に優り劣りのない取調べをした上でなければ断罪に至らないに違いないのだ。
 余談は置いて、五月二十三日喜平第三回の訊問に取りかゝろう。
 この時は支倉は第二回の訊問の時程白々しい態度は執っていなかった。之を以て考えると、第二回の時は彼は自白後の内的反動で興奮していたのかも知れない。訊問は聖書の窃盗より徐※[#二の字点、1−2−22]に放火事件に及んで最後に殺人事件になっている。尤も興味のある殺人の所を例によって少し抜書して見よう。
 問 被告は神戸牧師に貞を無理に犯したと自白したか。
 答 犯したと云ったけれども無理とは云いません。
 問 九月二十六日貞に会った事は相違ないか。
 答 其日は丸切り会いません。
 清正公《せいしようこう》坂で待受けた事はありません。清正公坂より赤坂に電車で行ったと警察で述べたが、其頃同所に電車はない筈です。ない電車には乗れません。
 古我判事は支倉のこの返答に思わずはっと顔色を変え
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