歯《ほおば》の下駄をカラコロ/\と引摺って、刑事の跼《かが》んでいる暗闇を薄気味悪そうに透して見て通ったきりだった。
石子刑事は泣き出したいような気持だった。同じ気持の渡辺に何か話しかけようと思って捩《ね》じ向くと、遙か向うの方から怪しい人影が見えた。彼はブラ/\とこっちへ向って来る。
石子刑事ははっと緊張した。
怪しい影はだん/\近づいて来た。二重廻しにすっかり身体《からだ》を包んで、片手に風呂敷包を抱えているらしいのがチラと見える。鳥打帽子を眉深に被っているが、色白の年の若い男で、支倉とは似もつかなかった。石子刑事は落胆した。
怪しい男はちっとも気のつかない様子で刑事達の前を通り過ぎると、支倉の家に近づいたが、彼は何の躊躇もなくツカ/\と門内へ這入った。
石子刑事は勇躍した。
さっきから様子を見ていた渡辺刑事も喜色を面に浮べながら、
「とう/\やって来たな、だがあいつは支倉じゃないね?」
「違う」
石子は微笑ながら答えた。
「然し、関係のある奴に相違ない」
「兎に角出て来る所を押えよう。此間のような目に遭うといけないから、僕は庭の方を警戒しているよ」
「そうだ。今度逃
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