はあ、警察の方が何の用事があるのですか」
流石《さすが》に少し狼狽の色を見せながら彼は答えた。
「実は牛込神楽坂署の署長が是非あなたにお会いしてお聞きしたい事がありますので、私に署までお伴《つ》れするようにと云いつかったのです」
小兵ながらも精悍の気の全身に漲《みなぎ》っている石子刑事は色白の顔に稍赤味を帯びさせて、丸い眼を隼のように輝かせながら、否か応か、大きな口をへの字に結んでいる支倉の顔をきっと仰ぎ見た。
鳥渡《ちょっと》狼狽の色を見せた支倉は忽《たちま》ち元の冷静な態度に帰って、梃《てこ》でも動かぬと云う風だった。
「警察へ行くような覚えは更にないが、何か聞きたい事があればこちらへ来られてはどうですか」
彼の声は身体に相応《ふさわ》しい太い濁声《だみごえ》で、ひどい奥州訛りのあるのが、一層彼をいかつく見せた。
「ご尤もです」
石子はうなずいて見せた。
「然し署長は何分多忙な身体ですから、お出でが願えると好都合なのですが」
「もし嫌だと申したらどうするのですか」
「それは大変困るのです。是非どうか――」
「一体どう云う用事なのですか」
「それは私に分りませんのです」
「
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