めようと思った。そうして書類を見たいと言った友人の顔を思い浮べながら、云うべき冒葉を口の中で呟いた。
「昨日一日探したけれども、見つからんかったよ。大した事じゃないから、君、どうでもえゝじゃないか」
 けれども、苦虫を噛み潰したような顔をしているその友人は、中々こんな事で承知しそうもないように思われたので、新聞社長は再びせっせと堆高《うずたか》い書類を漁《あさ》らねばならなかった。
 書類の間に鼠色に変色した大型の封筒が挟まっているのが、ふと彼の眼を惹いた。
 彼は急いで封筒を取上げて裏を返して見た。果して裏には墨黒々と筆太に支倉喜平《はせくらきへい》と書いてあった。彼は眉をひそめた。
「はてな、どうしてこんなものが残っていたのかしら」
 中を開けて見るまでもなかった。執拗な支倉の呪の言葉で充ち満ちているのだ。支倉は彼が庄司氏に捕われて獄に送られ断罪まで十年の間に、庄司氏に当て呪の手紙を書き続けた。庄司氏は一つ一つに番号を打ってあった呪の手紙の最後の番号が七十五であった事を覚えている。その手紙の一つがどうした事か偶然発見されたのだ。庄司氏はふと過去を追憶した。
 豪胆な、そうして支倉の
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