尖った頬骨、大きな鼻と凹凸の多い彼の顔にクッキリとした影をつけて、彼を一層物凄く見せていた。
「よしっ、そんならお前に見せるものがあるっ」
 そう叫んで石子は何やら白いものを取り出したが、支倉は一目見ると、
「あっ」
 と叫んだ。

 支倉が一目見るより、あっと叫んだのは何事か。石子刑事の取り出したものは白く曝れた髑髏だった。
「支倉、この髑髏をよく見ろ」
 石子は支倉の眼の前に気味の悪い頭蓋骨をつき出した。
「これは何だ」
 支倉は叫んだ。
「分らないか。この髑髏の歯を見てみろ。之はお前に殺された小林貞の骸骨だ」
「え、え」
 支倉は恐怖の色を現わして顔を背向《そむ》けようとした。
「おい、何もそう恐がる事はない」
 渡辺刑事は石子から髑髏を受取りながら、
「お前の可愛がった女の骨じゃないか」
 未だ深夜と云う程ではない。けれどもこゝは聞くだに恐ろしい刑事部屋で、あたりは寂としている。それに荒くれた刑事達に取巻かれて、髑髏を眼の前につきつけられたのであるから、流石の支倉もギョッとしたに相違ない。もし彼が小林貞を殺していたとすると、いかに恐怖を感じたであろうか。想像するに難くない。
 然し、強胆な支倉はチラと取乱した姿を見せただけで、忽ち元の憎々しい人を人とも思わぬ態度に帰った。
「そんなものは俺は知らない。貞を殺したなどと飛んでもない事を云うな」
「貞の屍体は大崎の古井戸から出て来たのだがね」
 根岸は静かに云った。
「君はその時に見に行ったそうだが、どんな気持がしたね」
「大崎の古井戸から女の屍体が上がった事があった。俺はそれを見に行ったのを覚えている。然し、あれは決して貞ではない」
「そんな事はないよ。確に貞の屍体だよ」
「いや、あの上がった屍体はすっかりと腐爛していたから誰の屍体だか分りゃしない。現にあの時の検視官にも何も分らなかった筈だ」
「支倉君、君は非常に委しいことを知っているね」
「――――」
「君は何か思い当る所があったので、検視の結果に深い注意を払っていたのだろう。ね、そうだろう」
「――――」
「支倉」
 耐りかねたように石子刑事が叫んだ。
「お前が古井戸の中へ女を抛り込んだ事はいかに隠そうとしても無駄な事なのだ。早く有体《ありてい》に云って終《しま》え」
「いつまでも隠し切れるものではないよ」
 根岸はネチ/\した調子で続ける。
「僕も随分い
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