から来たもので、巻紙に肉太の達筆で長々と認《したゝ》めてあった。何となく圧迫されるような気持で封を切った石子刑事は、忽ち両手をブル/\顫《ふる》わせて、血の気を失った唇をきっと噛みしめた。

 石子刑事に宛てた支倉の手紙には次のような事が書かれていた。

[#ここから1字下げ]
拝啓
 過日|態※[#二の字点、1−2−22]《わざ/\》御来訪下され候節は失礼仕候。一旦御同行申すべきよう申し候え共、つら/\考うるに警察署の取調べと申すものは意外に長引くものにて、小生目下|鳥渡《ちょっと》手放し難き用件を控えおり、長く署内に留め置かれ候ようにては迷惑此上なし。依って右用件済み次第当方より出頭仕るべく候間左様御承知下され度候。尚一筆書き加え候が、多分は聖書の件と存じ候が、あれは尾島書記より貰い受けしものにして、決して盗み出せしものに非ず、右御誤解なきよう願上候。呉々も小生居所についての御詮議は御無用に願度、卿等の如き弱輩の徒には到底尋ね出ださる余に非ず、必ず当方より名乗って出《い》ずべきにより、無用の骨折はお止めあるよう忠告仕候。
[#ここで字下げ終わり]

 石子刑事は歯噛みをして口惜しがった。
 手紙を見せられた渡辺刑事も激怒した。
「馬鹿にしていやがる」
 稍《やゝ》あって石子は腹立たしそうに云った。
「聖書の事などは云いやしないのだろう」
 渡辺刑事が聞いた。
「無論云いやしない」
 石子は余憤の未だ静まらない形で、荒々しく答えた。
「ではきゃつ[#「きゃつ」に傍点]脛《すね》に持つ疵で早くも悟ったのだね。それにしても聞きもしないのにこんな事を書くのは白状したようなものだ」
 渡辺は鳥渡息をついで、
「尾島書記と云うのに会ったかい」
「会ったさ、然し貰ったと云うのは嘘だよ。会社の方で公の問題にしたくないと云う考えがあるので、それにつけ込んでこんな事を云っているのだ」
 石子は一気にそう云ったが、やがて調子を変えて、
「そんな問題は後廻しだ。一刻も早くきゃつを捕えなければならん」
「無論だとも」
 渡辺は言下に答えた。
 その日午後に又もや支倉から石子刑事に宛て一通の書留速達が舞い込んで来た。それには家の廻りなどをいくら警戒しても無駄な事だと云った意味が、前の手紙よりも一層愚弄的に書いてあった。
「畜生!」
 石子は心の中で叫んだ。
「おのれ、今に見ろ、然し俺は冷静
前へ 次へ
全215ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
甲賀 三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング