悪鬼のように吊上がった。
「愚図々々|吐《ぬ》かすと、只じゃ置かないぞ」
「なんだって、只は置かないって面白い、手前が恥しい真似をしやがって、あたしをどうしようていんだ。殺すなら、さあ殺せ」
「うるさいっ」
浅田は呶鳴った。
「貴様みたいな奴を誰が殺すもんか。こゝでは話が出来ない、家へ帰れ」
「誰がこのまゝ家へ帰るもんか。あたしゃこの場で何とか極りをつけて貰うまで一寸だって動きゃしない」
「帰れったら帰らないか」
「いやだよう、支倉の奥さん、何とか鳧《けり》をつけとくれ」
静子は蒼白い顔をして、大きく肩で息をしながら、浅間しい夫婦の乱闘を眺めてはら/\していたが、どうする事も出来なかった。
浅田はとう/\お篠の腕を捻上げて、グン/\引立てた。
「奥さん」
部屋を出る時に浅田はグッと静子を睨みつけながら云った。
「どうも失礼いたしました。このお礼はきっとしますぞ」
静子はブル/\顫えて顔を伏せた。
泣き喚くお篠をしっかり小脇に抱えて、玄関に出ると浅田はハッと立竦んだ。
そこには根岸刑事が冷やかな笑を浮べながら、突立っていた。
日外《いつぞや》一度取調べられてから、どことなく底気味の悪い刑事だと思っていた根岸が、時も時、ひょっこり眼の前に立っていたのだから、浅田の驚きは大抵でなかった。彼は思わずお篠を抱えた手を放した。
「態《ざま》見ろ」
お篠は呶鳴り出した。
「警察の旦那がお前に用があると云って来たので、大方こゝに潜り込んでやがるのだろうと思って、旦那を案内して来たんだ。それを知らないで、ふざけた真似をした上に、あたしをこんな酷い眼に遭せやがった。ヘン、玄関に刑事さんが待っているとは気がつかなかったろう。いゝ気味だ。さあ旦那、こんな奴は早く引っ縛って連れて行っておくんなさい」
「真昼間から夫婦喧嘩は恐れ入るね」
根岸刑事はニヤ/\とした。
「夫婦喧嘩じゃありません。この野郎が支倉の奥さんに――」
お篠が喚き立てようとするのを浅田は押えた。
「根岸さん、私に何か御用ですか」
「えゝ、鳥渡聞きたい事があるので、署まで来て貰いたいんですよ」
「そうですか、じゃ直ぐ参りましょう」
墓を発《あば》く
牛込神楽坂署の密室で、庄司署長を始めとして、大島司法主任、根岸、石子両刑事の四人が互に緊張した顔をして何事か協議していた。
「する
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