の最後の足掻《あがき》の「サイアク・オククウ」と云う言葉、等々からして、星田が山川某と同一人である事は動かし難いとしても、宮部京子の殺人犯人ではあり得ないような気がするのだ。津村は例の脅迫状や、博覧会場での奇怪な出来事を、村井の所為《せい》じゃないかとさえ疑った事があるのだ。
さて、津村と村井の二人は互に白けた顔をして、ものの三十秒も睨み合っていたが、やがて両方から同時に口を切った。
「如月に会いに来たのか」
「如月に用があるんだな」
そうして、二人は再び無言になって、云い合したように、アパートの中に這入り真弓の部屋の扉《ドア》を叩いた。二人は互に相手が洋装の女の秘密を悟った事を知り、互に最早相手を撒く事が出来ない事を観念したのだ。
激しいノックの音に、中では返事する代りに、扉がグッと開かれた。
果して、そこには例の洋装の女がいた!
如月真弓は津村と村井の顔を見ると、見る見る、色蒼ざめて、ワナワナと顫《ふる》え出した。そうして、口の中で、
「アア、とうとう――」と呟いた。
津村と村井とは、互に後れるのを恐れるように、犇《ひし》めきながら部屋の中に這入って、扉をピッタリと閉めた。
真先に口を切ったのは村井だった。
「如月さん、真弓さん、知っている事をすっかり話して下さい」
津村は続いて、
「如月さん、あなたは宮部京子を殺した男を知っているでしょう」
「ああ、あたし――」
真弓は両手で顔を伏せた。そうして、フラフラと倒れようとして、辛うじて床に蹲《うずく》まりながら、
「可哀そうな姉」と云って、忽《たちま》ち激しい啜《すす》り泣きを始めた。村井はうなずいて、
「ああ、やっぱり、あなたは俊子さんの仇《あだ》を打ったのですね」
「え、え」津村は驚いて、「俊子とは、じゃ、真弓さんは」
「なくなった浦部俊子の妹さんさ。君はそれを知らなかったのかい」
「知らなかった。俊子さんの妹?」
津村は改めて真弓の姿を見守った。
村井はやや得意そうに、
「僕の推測は誤らなかった。真弓さんは姉さんの復讐をしたんだよ」
と、突然、真弓は顔を上げた。
「違います、違います。私は姉の仇を討とうと思って、そ、それが出来なかったんです」
甲高《かんだか》い声でこう叫ぶと、彼女は再び激しい泣きじゃくりを始めた。
恐ろしい男
津村と村井はちょっと顔を見合したが、直ぐに右
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