離され、ガス管からは現に猛烈な勢いでガスが噴出していた。屍体は死後七八時間を経過し、外傷等は全然なく、全くガス中毒によるものと判明した。
 博士は前夜、M高校出身の医科学生の会合に出席して、非常に酩酊して、学生の一人に送られて、十時半頃家に帰って寝についたのだが、一旦寝台に横《よこたわ》ってから、一度起上って扉に内側から鍵をかけた形跡が歴然としていたので、その際誤ってガス管を足に引かけ、抜け去ったのを知らないで、寝た為にこの惨事を起したものと見られている。
 然し、一方では、博士が最近に脅迫状らしきものを受取り、不安を感じていたらしく、護身用の自動拳銃《オートマチック》を携帯していた事実があり、且つ、泥酔していながらも、扉に鍵をかける事を忘れなかった点、及び扉に鍵をかける気力のあるものが、ストーブを蹴飛して、ガスの放出するのに気づかないのは可笑しいという説も生じ、当局では一層精査を遂げる由である。
 屍体は現場に於ける警察医の検視で、ガス中毒なることは明かであるが、前述の理由によって、大学に送って解剖に付することになった。法医学の権威笠神博士が執刀される筈だったが、都合で宮内《みやうち
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